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乙姫にもらった刀

鉢形城は北に荒川、東に深沢川がめぐる天然の要害に建ち、難攻不落といわれた。今も土塁や空堀などの遺構が残り、国指定史跡となっている。この城に古くから伝わる龍宮伝説。海のない北武蔵に暮らす人々にとって憧れだったのかもしれない。

「300年ほども昔のことだ。寄居の鉢形に小さな城があった。不思議なのは、その城のまわりに巡らされている堀だった。いつも底の土を見せておってな、よほどの大雨でも降らんと、水の流れていることはなかったとよ。
 そんな空っぽの堀では、いくさのときにゃ役に立たんように見えるが、じつはちゃんと工夫がしてあったのじゃ。堀の底に48の穴が開けてあり、それぞれ蓋がしてあった。その蓋の形がご飯を炊く釜の蓋に似ておったんで、人々は『鉢形の48釜(すがま)』と呼んでいたげな・・・」

 その釜の上に、左衛門という男が粗末な家を建て、美しい妻と二人で暮らしていた。左衛門は、荒川で魚をとって暮らす貧しい漁師だった。ある日、妻が左衛門に告白する。

「じつは、私は龍宮城の乙姫さまにつかえているタイなのです。そそうをした罰で、人間の姿に変えられていたのです。さきほど、乙姫さまからお許しが出たから、早く帰れ、と龍宮の使いがまいりました。」

 妻は魚の姿になり、堀の底の釜形の蓋を上げ潜っていった。左衛門が追うと、やがて龍宮の御殿にたどり着く。左衛門はそこでごちそうを食べ、うまい酒を飲み、夢のような日々を送るが、やがて自分の家が懐かしくなり、別れを告げる。乙姫様は水切丸という美しい刀を左衛門にもたせた。

「みんなに送られて、鉢形城の堀の下までつつがなく帰ってきた。ところが、釜形の蓋が固くしまっていて、押しても引いてもびくともしない。そこで、みやげにもらった水切丸のさやを払うと、蓋めがけてエイッとひと突きにした。とたん蓋がはずれた。
 穴から上にあがってみるとな、大きなウミガメが真っ赤な血をしたたらせて苦しんでおったと。左衛門はウミガメをあわれに思い、傷の手当をして穴から海へ逃がしてやった。 『小屋に戻れたのも水切丸のおかげだ。粗末にゃできねえ』と、左衛門は自分の小屋のそばにお堂をたて、そこに水切丸をまつって、朝夕おがんでいたと。ところが、あるときお堂が火事で焼けてしまった。不思議に、水切丸だけが残ったと」

「ただの刀ではない」と、左衛門は鉢形城主、北条氏の菩提寺として知られる寄居の正龍寺に、その刀を納めた。
「それから後、水切丸はどうなったか、まるでわからん。正龍寺にも今はないそうな」

 鉢形城跡には、当時の面影をしのばせる空堀や土塁が今も残されている。

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